実務ナビ(派遣先均等均衡方式②)

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派遣先均等・均衡方式とは?──導入のポイントと実務対応を解説!

2020年4月の法改正で義務化された「同一労働同一賃金」。
前回の記事(第1部はこちら)では制度の概要と派遣会社が押さえるべき全体像をご紹介しました。
今回は、その中でも【派遣先均等・均衡方式】にフォーカスして、派遣会社が実際に対応する上でのポイントや注意点を深掘りしていきます。

1. 派遣先均等・均衡方式とは?

この方式は、派遣先で直接雇用されている労働者との待遇を基準に、派遣労働者の待遇を決める方式です。
「派遣先の正社員と比べてどうか?」が待遇決定の基準になるため、派遣会社にとっては情報収集や調整が非常に重要になります。

ポイントは以下の通りです:

  • 比較対象となるのは、派遣先の同種業務の通常の労働者(正社員など)
  • 派遣先からの情報提供が必須(労働者派遣法第26条第7項~第10項)
  • 職務の内容や人材活用の仕組み(配置の変更範囲など)も考慮する必要あり
  • 派遣先企業の規模などによっては、高待遇となる可能性がある
  • 労使協定締結の複雑な事務プロセスは省略できる

2. 導入のハードルと実務上の課題

この方式の最大のネックは、派遣先から必要な情報をきちんと得られるかどうかに尽きます。

  • 賃金テーブルや福利厚生制度などを開示してもらう必要があるが、情報提供に消極的な派遣先も多い
  • 同種の業務に就く正社員がいないケースでは比較対象が不明瞭になりがち
  • 情報を得たとしても、「均等・均衡」の判断には専門的な知識が必要

つまり、派遣会社にとっては導入のハードルが高く、労力とリスクが大きい方式であるとも言えます。

3. 派遣会社が押さえておきたい3つのポイント

派遣先との契約前に情報提供について合意をしておく
→ 契約書に「情報提供義務」の条項を盛り込むことで、後々のトラブル防止。

待遇決定の根拠をしっかり記録に残す
→ 書面化と説明責任が非常に重要です。労働者への説明義務もあります。

厚労省のガイドラインや判例を活用する
→ 「均衡」の判断に困ったら、ガイドラインや厚労省のQ&Aを参考になります。

厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要(印刷用)

同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)

4. 専門家の視点から──この方式は“選ぶべき”か?

実務的には、派遣先均等・均衡方式を採用している企業は少数派で採用率は7.9%(※)

※厚生労働省公表「労使協定書の賃金等の記載状況(一部事業所の集計結果(令和5年度))」による
理由は明確で、「情報が揃わない」「比較が難しい」「リスクが高い」ため。
派遣会社の立場としては、この方式は慎重に扱うべきといえるでしょう。

ただし、派遣先が積極的に情報提供をしてくれる場合や、特定の顧客との関係性が強い場合には、メリット部分を活かせる可能性があるので選択肢として検討の余地があります。

5. まとめ

  • 派遣先均等・均衡方式は“派遣先の正社員との比較”に基づく制度
  • 情報提供の難しさ・判断の難しさから、実務上はハードルが高い
  • 導入する場合は、契約・記録・説明の3点を徹底することが重要

次回は、もう一つの選択肢である【労使協定方式】を深掘りしていきます。
派遣会社にとってより現実的で柔軟性のある制度として活用されている方式です。

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