実務ナビ(労使協定方式③)

労使協定方式、ちゃんと使いこなせていますか?

目次

― メリットと注意点、協定作成のポイントをやさしく解説

「同一労働同一賃金」対応として、派遣会社が選択できる2つの方式。
第2部では「派遣先均等・均衡方式」についてご紹介しましたが、実際の現場では90%以上の企業が「労使協定方式」を選んでいます。

その主な理由は、
自社で賃金水準を定められる柔軟さがあり、派遣先企業との調整も少なくて済むからです。

ですが、実際には

  • 「実は協定をどう作ればいいのか、よく分かっていない…」
  • 「とりあえず雛形を使って作ったけど、自社の実態に合っているのか不安」
  • 「更新のタイミングや賃金水準の見直しって、どうすればいいのか?」

こういったお話を伺うことも少なくありません。

今回は、労使協定方式の基本から落とし穴まで、わかりやすく整理してお伝えします。

1. 労使協定方式とは?あらためて基本を確認

労使協定方式とは、派遣元(=派遣会社)が労働者代表と労使協定を締結し、その協定に基づいて派遣労働者の待遇を決める方式です。

「均等均衡方式」のように派遣先の社員と比較するのではなく、国が定めた「一般賃金水準」(職種別の統計賃金)をベースに、自社でルールを決めていきます。

 この水準は毎年発表されます(変わるということです)

✅ 自社で賃金体系を作れる
✅ 派遣先との複雑な調整が不要
✅ 労働者に対して労使協定を示して説明しやすい

などといった理由で、多くの派遣会社に選ばれています。

2. 労使協定方式の“3つのキモ”

ただし、労使協定方式には注意しておきたい大事なポイントがいくつかあります。
特に以下の3つは見落としがちなので要注意です。

① 協定の有効期間と更新手続き

協定には「有効期間」を必ず定めなければなりません。
通常は1年ごとの更新とされることが多いですが、これを忘れて放置していると、「協定が失効した状態」となり、法違反の判定につながることも…。

②一般賃金水準の正しい把握と“比べる対象”の落とし穴

労使協定方式では、「同じ業務に就いている一般労働者と同等以上の待遇」を確保するために、
厚生労働省が毎年公表する「一般賃金水準」をもとに、職種ごとの時間あたり賃金を設定します。

この時「自社のこの職種は統計の基準額を上回っているのか」と単に数字の比較するだけでは終わりません。

一般賃金水準は、職種ごとに経験年数や培った能力に応じて上昇(昇給)する設定がされていますので

派遣労働者の実際の業務内容だけではなく、どのレベルの難易度や責任を伴う仕事なのかというところまで

“評価して賃金設定” しなければなりません。労働局の点検ではこのあたり、チェックを受けがちです。

そして、比較の対象となる “賃金の中身” にも注意が必要です。

💡比べるべき相手は「賞与・手当込みの総合的な水準」

厚労省が示す「基準額」には、賞与(ボーナス)相当額があらかじめ含まれた金額になっています。
具体的には、
基準月額賃金 +(賞与等年額 ÷ 12ヶ月)を合算して、時間あたりに換算した「基準時給」と、
自社が設定する「実際の賃金水準(賞与の有無含む)」を比較する必要があります。

💡通勤手当も比較対象です
通勤手当についても、「比較すべき待遇の一部」に含まれます。実費を支払っている場合は良いのですが、そうでない場合はこちらも一般基準を満たした設定をする必要があります。

💡退職金の比較については3つの方法があります

労使協定方式では、退職金の取り扱いも重要な要素です。
しかし派遣労働者に退職金制度を適用されることは少なく、以下の3つの方法から選択することができます。

方法内容
① 退職金制度を適用一般労働者と同様に、退職金制度を整備して支給する
② 毎月の賃金に加味退職金相当額を時給に上乗せして支給する
③ 毎月掛け金を拠出する中退共や確定拠出年金に加入する

最も多く採用されているのは②の「時給への加算方式」ですが、加算額の誤りには十分注意しましょう。

③ 職務内容・能力・成果などを踏まえた待遇決定

労使協定方式では、単に「賃金いくら」だけでなく、どうやってその賃金を決めているのか、また改定するのかを明確にする必要があります。

  • 基本給や賞与の決定方法
  • 経験・能力・業績が賃金にどのように反映されるのか
  • 賃金以外の待遇(手当、福利厚生など)の取り扱い

こういった要素も協定に盛り込む必要があります。

3. よくあるご相談と、実務の落とし穴

制度開始から時間が経った今、こんなお悩みが増えています:

  • 「当時作った協定のままで、見直していない」
  • 「協定を作ったけど、労働者代表の選出手続きが適正だったか分からない」
  • 「新しい職種を追加したいけど、協定にどう書けばいいのか迷っている」

このように、制度の“入口”は通過したけれども、継続運用でつまずくケースが多いのも実情です。

4. まとめ:労使協定方式、“実は選んでからが本番”です!

同一労働同一賃金への対応策として、多くの派遣会社が選んでいる労使協定方式
自由度が高く、派遣先との調整も不要なため“運用しやすい方式”ではありますが、その反面、協定の内容や手続きの適正さが厳しく問われる仕組みでもあります。

とくに、次のような点には要注意です:

📌【制度のポイント整理】

  • 労使協定の有効期間は定めが必要。原則1年更新、放置すると法違反として指導を受けることにも。
  • 一般賃金水準との比較は、厚労省が毎年発表するデータが基準。
  • 賞与・各手当の額や通勤手当、退職金も含めて総合的に賃金比較を行う必要あり。
  • 退職金の比較方法は3つ(退職金制度・退職金前払い・掛け金拠出)から選べる。
  • 職務内容・能力・成果などを反映した待遇決定基準も協定内に明記が必要。
  • 労働者代表の適正な選出手続きも忘れずに!

📌【よくある課題】

  • 雛形を使って協定を作ったまま、毎年の見直しをしていない
  • 新しい職種を追加したいが、統計の読み方や協定の修正方法が分からない
  • 協定はあるけれど、実際の説明や運用が追いついていない

📌【労使協定方式は“作って終わり”ではなく、“育てていくもの”】

派遣社員への待遇説明義務がある以上、「協定があるだけ」では不十分です。
中身が自社の実態に合っていて、法律の要件を満たし、そして派遣労働者に説明できる内容かどうかが重要です。

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